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「そうやって仕方ないって言うことに慣れていくんだな」 「そうやって悲しい顔で言われると、まるで悲しいことみたいだね」 「おれは悲しいからな」 「うん?」 「お前がそんなことを言うのは聞きたくない」 「自分だって悪くないって言うじゃないか」 「お…
あんたのそーゆーとこがきらいなんだよ。 顔をそむけて、むくれて言った。 ……告白だろ?それ。 ふりはらわれた手をぶらぶらゆらせて、 笑ってやった。
死んだものの臭いがするね 強い春の風に顔をしかめて彼が言った あいつ、今年は随分早くに行ってしまったんだな ぽつりと呟いて、忌々しげに舌打ちをした ああ、髪がめちゃめちゃだ 向かい風に逆らうように肘を突き出して ばたばたとなびく髪の毛を押さえる …
あなたが元気でうれしい。なんて、はっきり言ってウソだった。本当は、あなたがみじめであればいいと思ってた。元気な顔を見てがっくり来た。だけど、あなたがみじめなら良かった。なんて口にするわけにいかないし、顔に出すわけにもいかないし、良かったね…
2月はいつも海にいる。 暗い冷たい海が好きなのだ。 「トク**ベツって**いう、の、は」 「サ*ミシイ**もん、だ、な」 「*♯××・・・*」 「お*れはトクベ**ツだった、か、ら」 「**イジワ**ルされたん*じゃ、な、い」 「イジ**ワ*ルされ…
あまいゼリーの海の底で、息苦しくてあたしは泣いたのですが、泣きつかれて見上げた水面のはるか上方では、シャーベットグリーンの星が、ちかちかとまたたいていました。「こんにちは。こんにちは。ここはとてもさむいんだ。」星はなんども言いました。そう…
「今死んだら悪霊になるよ。」 「ずっと、さいごまで、そう思い続けるのが、理想。」 クライムはずっとそう言っていたから、 彼が本当に悪霊になったと聞いたとき、 わたしもシクスもなにも感じなかった。 ただ良かったなと思っただけだ。 強く思い続ければ…
からだにいくつもあいた穴からどくどくと中身がこぼれてくるので困ってしまったリトル・リリィは、おこづかいをはたいて透明なバンドエイドを127箱買いました。そうしてパパとママの寝静まった深夜、ぺたりぺたりと指の皮がむけるまで、からだ中にバンドエイ…
気づいたら、さらさらと続く砂色の丘の上にいた。 視界の半分はだまりこくった透明な闇でおおわれている。 その下で、砂は弱い風にまかれるように姿を変える。 波打ち、跳びはね、横たわる。(ここは砂の海ね。) つぶやくと、かたわらにいる人が小さく首を…
「うそをつくのか?」 「いいや、夢をみんのさ」 「?」 「やつァいるよ。今は俺の目に見えないだけだ」 「それが夢か?」 「そうだ」 「セコイ夢だな」 「そうだな」 「信じてるのか」 「でなきゃ夢とは呼ばねえ」 「……そういうの、なんていうか知ってるか…
春は人を殺す季節だって言うけどさあ、それってうそだよな。 ナガレが言った。 春じゃなくって、そこから続くなにかが人を殺すんだ。 桜を散らす春の雨。 洗われてつやめく青いみどり。 アスファルトをけずる夏の嵐。 そんなふうに、ぬれて匂い立つ、生きて…
キオに伝えたいことがあった。 あたしのこと。 ぜんぜん意味なんかない。 でもだいじなこと。 ぶかぶかのTシャツを着てた。 大きいだけの手であたしの髪をなでた。 「生きてるんだろ?」 「だったら、お前だって俺だって失うばっかじゃないよ」 そう言って…
戦えば? 青流が言った。 何それ。 思わず小さく吹き出したら、 青流はまるで職人のような顔で 自分の前に置かれたコーヒーカップのふち辺りをじっと見た。 愛があるなら。 そう、ぽつりと付け足された言葉に 何それ、と今度は笑えなかった。 (愛なんか、あ…
カンが悪いね。 バズーカはそう言って、 こめかみを何度か人差し指でこすった。 説明するのは難しいな。 あいつの身体の半分はうそでできてるんだ。 腕も肩も目もカカトも言葉も心も全部 半分はうそでできてるんだ。 あいつを信じるのはあんたの自由だけど、…