天

勇者さまは言ったでしょう
あのとき
ぼくのことは撃てないって
ぼくは魔物じゃない
まがいものだからって


見てください
今ぼくは魔物でしょう
まがいものではないでしょう
それがどれほどすてきなことか
勇者さまにはわからないかな?


ぼくは…
ぼくたちは
ずっとあなたに撃たれたかった
不思議なことではないんだよ


勇者さま
あなたに撃たれて地獄に堕ちる
ぼくたちは永遠に
あなたたちの唱う天には
ゆかずにすむ

 憧

きみのようになりたい
きもちが不純に思えてきたのは
いつのこと?


きみが好きだよ
そんなシンプルなことばでは
そぎ落とされてしまう
いとくずみたいなもので
わたしはできてる


ばらばらときれいにほどければ
きみはきっと
全てのいとくずをひろって
あみぐるみのへびをつくってくれる
なんてすてき
だけど


きみの指先がつくりだす魔法で
うまれ直して
ただやわらかくもみつぶされて
こころからきみを好きだよと言える


純粋だってきっとすぐにほつれて
かたちをなくしてしまうから


ほんのちょっと引っぱればほどけてしまう
不純なつらなりでここにいる
きみと同じ画像をこっそり
デスクトップの背景にはってる


グラビアアイドルばりに微笑む

 環

手の甲にみっしりと生えた
ふれれば刺すほどに尖った
まっくろで固い毛


熊の毛皮みたい
がっくりと項垂れたわたしの後ろから
肩越しにこちらを覗き込んで
君が言った



「もうすぐ寒くなるんだよ。」



それは10年も昔の話
夢の中の話
いつも背の向こうから話しかける
耳に残る君のやわらかい声も
ほんとうはこの鼓膜を震わせたことはない



いつか寒くなるんだよ。



ときはめぐりめぐり何度も
降りしきる冷たい雨は道を埋める
ひとりなのも気づけないくらい
ひとりぽっちになる
そんなとき


手の甲の固い毛皮が
きっとわたしを守ってくれる
あのとき
君の言葉がそうであったように


さむいさむいさむい夜に
見苦しく尖った
固い黒い毛で覆われた手の甲を
誰にぶつけるでもなく黙ってなでた


あのとき
わたしの手がそうであったように

 線

手癖でひかれた線はうつくしくないかなあ
口癖になった言葉は誰の胸も打たないかなあ
この惰性を罪悪という
君の望む新世界は
拙い子どもの手が作っては壊す泥細工じゃないのかなあ
ぼくの目は悪くて
なにひとつハッキリとは捉えられないけど
惑わない君のゆき方は
ひとにはあり得ないきっぱりしたライン
鋭く尖った刃物のような直線
とてもとてもうつくしいけれど
ぼくには要らないかなあ
描いても描いても歪んで絡まるぼくのライン
でたらめで目障りだけど半分くらいベクトルはあるよ



閉じてほどけても動き続ける