環

手の甲にみっしりと生えた
ふれれば刺すほどに尖った
まっくろで固い毛


熊の毛皮みたい
がっくりと項垂れたわたしの後ろから
肩越しにこちらを覗き込んで
君が言った



「もうすぐ寒くなるんだよ。」



それは10年も昔の話
夢の中の話
いつも背の向こうから話しかける
耳に残る君のやわらかい声も
ほんとうはこの鼓膜を震わせたことはない



いつか寒くなるんだよ。



ときはめぐりめぐり何度も
降りしきる冷たい雨は道を埋める
ひとりなのも気づけないくらい
ひとりぽっちになる
そんなとき


手の甲の固い毛皮が
きっとわたしを守ってくれる
あのとき
君の言葉がそうであったように


さむいさむいさむい夜に
見苦しく尖った
固い黒い毛で覆われた手の甲を
誰にぶつけるでもなく黙ってなでた


あのとき
わたしの手がそうであったように