1999-04-01から1ヶ月間の記事一覧

神様が君にくれたものをひけらかすのがはずかしいことなんてどうか思わないで

 フォーカス

まるで泥みたいだと思った 語尾のはっきりしない言葉 絶えずさまよう視線 だらしなくゆがんだ口元 きちんとしたかたちのあるものを何も持たない 君はまるで泥みたいな人間だった ただ右手の中指にはめた 白い花をモチーフにした指輪だけがきれいだった 僕は…

 try again

ゆうべ泣きながらみがいたつめが 残酷な朝の光にきらきらつやめいている はれた目元をつめたいタオルで冷やしながら 人が束になって流れる新宿駅の階段を 金曜一限のドイツ語のテキストの黄色い表紙を 思い出したらくらりとめまいがした タフで強情な日常 逆…

 dear Father

あなたはいつも僕の部屋のドアを開けて君は自由だと言う このドアは開いている 君はどこへ行ってもいい わかるだろう? 「君は自由なんだよ」 はれやかなあなたの笑顔を見るといつも僕は笑ってしまう 長いこと一緒に暮らしているけれど あなたに僕の気持ちが…

 プロポーズ

夏の日 おしろい花のタネをかみくだいて かけた呪いはまだ有効ですか 不完全なドラッグ 吐き出した君にキスした あの日の誓いはまだ有効ですか

 えいえん

さみしいのがいやなんだ だからそくばくしてほしいんだ きみのことがすきなんじゃない ただぼくはひとりでいるのがいやなんだ だからずっときみとふたりで しぬまでふたりで えいえんにふたりでいたいんだ

死にたいんならひとりで死んで。 道連れがほしいんなら神様に相談して。 あたしはあんたの人生に これっぽっちも関わる気なんかないのよ。

 長い夜

ひとりの夜が長いなんて嘘だね 年上の友人がぽつりと言った あのとき不思議な気持ちで げっそりと頬のこけた横顔を見た セーラー服の私に 彼女ははにかんで笑ってみせた 今私は胸の中で何度も 彼女と同じ台詞をくり返している ひとりの夜が長いなんて嘘だ 永…

 右利きの人間

あなたは恋をしたことがないと スーツ姿の若い男に言われる 知ったかぶりのみにくい笑みと 無粋な眼鏡と 恋なんて単語があまりに不釣り合いで 思わず笑ったら左頬を殴られた 右利きの人間は嫌いだった

 春の花/旅人

たったひとりで旅をしているのだと言った その人は私の言葉にうすい茶色の瞳を細めるだけで 肯定も否定もしなかった 「ああ、もし。よろしければひとつ教えてくださいますか。 この花の名はなんというんです?」 立ち去ろうとした私の背に 古ぼけた茶色い帽…