星の墓場

気づいたら、さらさらと続く砂色の丘の上にいた。
視界の半分はだまりこくった透明な闇でおおわれている。
その下で、砂は弱い風にまかれるように姿を変える。
波打ち、跳びはね、横たわる。

(ここは砂の海ね。)
つぶやくと、かたわらにいる人が小さく首をふった。
(いや。ここは星の墓場だよ。)
そう言って、その人は腰をかがめる。
足元の砂を一粒拾いあげ、私の前にかざした。



褐色にやけた指の腹に包まれた砂はキィンと響いて、
かすかな死んだ光を放ち、身をよじるように指の間から抜け出すと、
わずかな間宙をさまよい、私たちから少し離れた場所に落ちた。
その動きで、私はこの場所に風が吹いていないことを知る。
この場所に風は吹いていない。
それなのに、砂はそれぞれうねるように姿を変える。



(星が死ぬのを見たことがある?)
グレイの目を私に向けて、その人が訊く。
私が首をふると、視線を前方に戻し、うっとりと微笑んだ。
(あれはねえ、すばらしく壮絶なセレモニーだよ。)
(大きく大きくふくらんで、ためこんだ力を全て使って、ぱあんとはじけるんだ。)
(うんざりするほど長い遠い光の連打、続く羅列。その最後……。)
(音もなく消えた残照のあと。なにも残らないと思うだろう?)
(だけど、やがて訪れる純粋な暗闇にまぎれて、わずかに落ちてくるものがあるんだ。)
(それがこれ。)



ささやくように言って、その人ははだしのつま先で足元の砂を蹴る。
指先を避けるように、砂がさわりと動いた。



(これは星の核。全ての星のいちばんまんなかにあるもの。それが降りつもってこの場所ができた。)
(星たちはここで最後の夢をみてる。)
(うつくしい夢だといいね。)



耳をすますと、確かに砂の一粒一粒がかすかにさざめいているのがわかる。
ぶつかり、はじけて、流れ落ちる。
私たちの立つ丘も、へこりと沈んで辺りに散った。
沈み込んだ私のとなりでとんと一度宙を蹴って、再びふわりと砂上におりる。
見たことのない異国の装束を着た人。
私はその人を知らなかった。



(あなたは誰?)
私の問いにその人はわずかに微笑む。
頭に巻いた布から乾いた薄い桃色の髪がこぼれた。
(私? 私はこの墓の番人。夢を食べて生きるけもの。この夢がうつくしい夢である限り、私は君たちをまもるよ。)
(君たち?)
眉を寄せた私にうなずいてみせて、その人はすっと片手を持ち上げた。
褐色の手のひらが私の目元をおおう。



(だから、君もゆっくりおやすみ。)



閉じた視界にその言葉がぶわりとひろがって、私を包みこんだ。
その途端 砂色の身体が端からくずれてキィンとはじけて、
私は砂の海に落ちた。