1995-01-01から1年間の記事一覧

 空白

二人ならさびしくないでしょう 同じマンションの中 立派な大家の部屋で暮らす祖母が もらいもののお菓子を手に ぽつりとつぶやいた 一人だからさびしい 頭の中で言葉がそう変換される 一瞬の空白のあと 姉と私は無意味に笑い声をたてる たかそうなモナカ さ…

 十二月

世の中わかんないことばっかで いちいち腹を立ててるひまもない だから どうにかこうにか生きてる限りは そんなこんなで 生きていこうと思う

 月夜のイヤリング

月夜のイヤリング 銀のひかりをあびた 月色のうろこのさかなたち 濃藍の空をおよいで 恋するひとのもとへ還れ

 三日月

三日月は人の心を狂わせる その狂わされた人のみる夢が一番うつくしいと 昔夢売りの男に聞いた 三日月は今夜もひっそりと光っている その光をうけた銀色の翼を持った夢を 今夜も僕は待っている

 夢

楽しいことに身をうずめられる 子ども時代を持たなかった それはきっと単純な不幸 信じられる大人に出会うことなく過ぎた 子ども時代しか持たなかった それはきっとよくある悲しみ ひとは創造されてゆくのです 空気に 空に 花や月に 大人たちに 子どもたちに…

 痛み

友だちと喧嘩をすれば胸が痛む 親に疑われたら頭にくる 恋人にふられたら 手首に一本赤い線を引くかもしれないし 知り合いに死なれたら 変わってしまった世界を悼んで 菊の花を一輪髪にさして泣くかもしれない 心は生まれたときからずっと シュミレーション…

 学校をやめた日

ひとりでお茶をいれて飲んだ 午後四時 お茶を飲まない? だれかに言いたい自分が 少しかなしかった お茶の缶をあける指 ポットをつかむ手つき いつの間にか身体が憶えてくれた そんな動作によって いれられた一杯のお茶に 私はとてもなぐさめられている 五本…

 イエス

はっきりしないことなんて いくらでもある わからないことより わかってないことより たくさん 世界ははっきりしないことで できているのだ だからきっと 答えなんてどこにもない どの道を進んでも きみのイエスは見つかるんだよ たとえそこに 道なんかなく…

 情

ひとは他人の中でしか生きられない。 そう言ったのは誰だったろう 思い込みや確執から 誰もが決して自由にはなれない それは忌むべきことなのか それとも感謝すべきことなのか (ひとの幸せを願うこと) (たとえそれがただのエゴであっても) 友情や愛情は …

 ミーハー

ミーハーなら楽しいのがいい 先のことなんて考えずに ただ楽しくやるのがいい いつか見える先なんて わざわざ考える必要は どこにもないから 大好きなあのひとの 長い足 ささくれた指先 やわらかい髪 ただひたすらうっとりと 追いかけるのがいい

 夢に棲む鳥

夢の暗黒に住む鳥の名はクレイモア 夢の夜明に住む鳥の名はホライズン

 神の場所

窓の向こうには街があります 灼熱の槍が降っています 空気は湯気のようにゆらゆらゆれて 人は皆、蜃気楼の向こう楼閣を目指して 重たい足を運んでゆきます 手を振ったら届くでしょうか 声をかけたら振り向くでしょうか うつろな瞳の焦点をひとつに結んで や…

 黒い点

正解率の限りなく低い イディオムのテキストを開いてたら しめきった部屋の中 どこから飛んできたのか 小さな虫がノートの端 ぽつり止まった 消しゴムのカスより小さな虫を 頬杖をついたまま シャーペンの先で追いかける とんとんとん 規則的な音とともに ノ…

 あした

ゆめにでてきたあの人に あしたの行き場所ききました ブルーの瞳を軽くほそめて 茶色い帽子をかぶりなおした あの人はにっこり笑ってこう言いました 僕はきのうをさがしてるんだ きのう落としたビー玉を 手をふって別れた道ばた あしたはどこにあるんだろう

 夜明け

なりたい自分があるひとは しあわせです やりたいことがあるひとは しあわせです 泣きたいとき 会いたいひとがいるひとは しあわせです 苦しいとき 名を呼ぶひとがいるひとは しあわせです 夜明け なにより神聖なあの光を 見たことのあるひとは しあわせです

 学校

学校には先生がいます 廊下を忙しく行き交う姿 胸に抱えたえんま帳 学校には生徒がいます 教室を埋めるブレザーの洪水 おしゃべりに顔をしかめたら失格 学校には空気があります 窒息するか圧死するかは お好み次第 けれど疑問に思ってはいけない 仲間たちよ …

 片想い同盟

好きだよと言ったら君は少し黙って それから真面目な顔でありがとうと言った ぽんと僕の肩をたたいて瞳を伏せて 「じゃあ同志だ」 つぶやく 視線を合わせて笑いあったその時に 僕には全てがわかってしまったから 「うん、同志だね」 盗むみたいに額にキスした…

ambition

中学生になったばかりの頃 まあたらしい英和辞典を 慣れない手つきでめくっていたとき ふと目についた単語がある "ambition" 良くも悪くも大きなのぞみ へえと思って 幾度か声に出してくり返した メモすることもなく忘れたはずの その響きが今になって なぜ…

未来

幼いころ あしたはいつも目の前にあった 手を伸ばすまでもなく ふれることのできる 身近なものだった 幼いころ きのうはいつも後からついてきた ふり返るまでもなく 話しかけられる 簡単なものだった 幼いころ 今日はいつもこの手に握りしめた だれにも見せ…

 あかり

たのしい時には歌おう かなしい時には笑おう うれしい時には電話をかけて つらい夜にははやく眠ろう くるしい時はひとみをふせて その時がすぎてゆくのを だまって待とう 窓の向こう 一日を誠実にこなした街に うすやみがおりてくる おとずれた夜に しずみこ…

 夏、知らない街で

独り言 ぽつりとつぶやいた 猫のあくび 青い空 みあげてため息をついた 犬の遠吠え 白い雲 ちぎれて南へ行った トカゲのしっぽ 夏のまんなかで 行くあてもなく座り込んだ アスファルトの道端 やあ と あいさつしたみたら 電柱の向こう 静かな声で せみが鳴い…

 ほのお

こえられないかべ つかみきれないおもい そして とどかないゆめ そんなものを 人はいつまでもかかえて 生きてゆくのだろうか 自分のからだの中に ねむるほのおを知らずに生きてゆく そんな人もいるのだろうか なみだが出るほどさびしくて そして幸福な そん…

 失恋

はやくちことば つむぎだすくちびる 氷のかけらおしあてた いっしゅんのひやりを待ってる きこえないメロディ つづるゆびさき 手をやすめたからだの中に ちんもくがながれこむのを知ってる わすれられたやくそく くりかえすまなうら こわれたえがおの破片あ…

 春到来

春の風は鼻歌まじりに南から吹いてくる 重いコートは冬の置きみやげ タンスの奥にしまいこんで わたしは大きく伸びをした たとえばうまくいかない毎日 無造作な言葉のやり取りが 時折ちくんと胸を刺す 鏡に映った見慣れない自分の顔に 疲れた笑みが浮かぶの…

 花の言葉

花の詩集を読みました こころが少しほっこりしてます やさしい可愛い花たちが かすかにさざめく 匂いたつその香りに わたしはかなしみを奪われてしまった 今時の子どものわたしは 花の名前も姿もあまりよく知らないけれど フリージアだったときのことを 思い…

 夢の話

サスペンスに思い出がまざってた 眠る前に読んだ漫画と だいぶ前に観た映画と 心にとめておいただけの出来事が すんなりと手をつないで 夢の中 私は非常階段をかけおりる 背中にはりついた汗が かわいた手のひらに すいこまれて消えた