空白

二人ならさびしくないでしょう



同じマンションの中
立派な大家の部屋で暮らす祖母が
もらいもののお菓子を手に
ぽつりとつぶやいた



一人だからさびしい
頭の中で言葉がそう変換される
一瞬の空白のあと
姉と私は無意味に笑い声をたてる



たかそうなモナカ
さつまいものパイ
あまい洋梨
手みやげがなければ孫の部屋も訪ねられない
祖母のさびしさが
狭いキッチンに満ちてゆく瞬間



さびしいなと心の中でつぶやいた
あなたに会えばいつも私たちはさびしくなる
おいしいお菓子を食べていても
高いお茶を飲んでいても
プレゼントのやり取りをしていても
さびしい
さびしい
つぶやきが心に満ちてゆく
くり返しくり返し



祖母の背中を見送って
もう一度熱いお茶をいれた
やわらかい和紙の包みをむいて
あまいお菓子をひとくちかじる
茶の湯気と静けさが
さびしさにとって変わる頃
やっと小さく息をついた



暗黙の了解に似た笑みを疲れた顔で交わすとき
私の中にまた空白が生まれるのだ
恨みでもあきらめでもなく
たださびしいと