春到来

春の風は鼻歌まじりに南から吹いてくる
重いコートは冬の置きみやげ
タンスの奥にしまいこんで
わたしは大きく伸びをした



たとえばうまくいかない毎日
無造作な言葉のやり取りが
時折ちくんと胸を刺す
鏡に映った見慣れない自分の顔に
疲れた笑みが浮かぶのを見る



シャツとジーンズで通りを歩く
だれかが口ずさむメロディが
春風に乗ってわたしの元に届く
気づいたらスニーカーに包まれた足が
軽いステップを踏んでいた



たとえば心を悩ます出来事
行き違いの想いをめぐって
瞳の中に小さな火花を散らす
あせばんだ手のひらに
つかみかけた夢のかけら
だれかの指先でくだけ散るのを見る



顔を上げて空をごらん
からだの奥に眠るなみだ
かくさないで
通りをうめる桜の花びら
夜が更ければ白く光って
星々もちかりと笑みをこぼすよ



目を閉じて深呼吸
春の空気を胸いっぱいに吸い込んで
だいすきな人に会いに行こう