痛み


友だちと喧嘩をすれば胸が痛む
親に疑われたら頭にくる
恋人にふられたら
手首に一本赤い線を引くかもしれないし
知り合いに死なれたら
変わってしまった世界を悼んで
菊の花を一輪髪にさして泣くかもしれない


心は生まれたときからずっと
シュミレーションしてる
怒ることも悲しむことも
憎むことも喜ぶことも
少しずつ少しずつおぼえてゆく
思いをかたちにしてあらわすことを


そうでなければ
どんなに強い思いも
人には認めてもらえないと
知っているから


けれどいつか
かたちにできない思いを知ったとき
人は自分の痛みを
自分自身に訊くだろう
答えの出ない問いを
投げ続けることだけが
痛みをいやす唯一の方法だとさとって


どんなかたちにもはまらない
誰の言葉にも迷えない
痛みというものがあるのだと
それを教えてくれるのは
自分の体だけなのだと
ぼろぼろになった体を抱いて
はじめて人は知る


それから気づくのだ
他人には決して見えない
自分というものが
この体にあるのだと