夏の恋

わかってる これは終わりのある蜜月 だからぼくははしゃぐ いつの日か 君の耳たぶのかたちを 忘れてしまってもいい ほんの一瞬の永遠に うたれてとけておちる

 さよなら

元気だよ 笑って言った 強がりでも笑って言った そのことにひどく安心したのは あなたよりずっとわたしだった さよなら。

 ノーリプライ

耳横をびゅうと通りすぎた風に ぎゅうとジャケットの前をあわせて そうなんだ、とつぶやいた 午後十時 線路沿いの道を早足で歩いてく 誰もいない ほんの少し歩調をゆるめ 相づちを返すように言ってみた ああ、そうなんだ つぶやきはびゅうと風に運ばれて 知…

 女神

ブーツで蹴られるより サンダルで踏まれる方が 本望って気がするなだってきみは この生臭く湿った世界を 吹き飛ばすために生まれた 女神

 パーフェクトストレンジャー

完ぺきなあなたの世界を埋める 完ぺきな部品になんてならないわ 完ぺきなあなたの世界を壊す 完ぺきですてきな不具合になる

とおいことをかなしみたくない それがあきらめではないことを いつの日か あなたも わたしも わかるといい

行かなくちゃ。

行かなくちゃ くり返してるうち 問いかけをなくす ねえ、どこに? ゆきさきは足がこたえる ここよりも暗くしめった つめたい水のあるところ かえるの声をまねて鳴く ちゅうとはんぱが住むところ もっとふかくに 行かなくちゃ

長くのびた とけて消えない 紙一重の夕暮れ

 虹

手の中で まぼろしの魚がはねた 水音は 虹に似ていた

 そらみみ

遠くのことをかんがえて 今を迷子になるよりは 今のことをかんがえて 今を迷子になってたい そらみみのように はしゃいでは泣く 子どもの声を むねのなかに聴く

 スケアクロウ

むねがきいきい鳴る夜は ブリキのかかしの夢をみる きれいになじむあぶらを一滴 させたらきっとこの違和感は消えて しずかな部屋で息をせず眠れる こころよりもずっと魔法 ハーブティーにホットミルク ブランデーをこぼしたショコラ ジンジャーハニーミルク…

 ララルー

きみのうたう ラ、ラ、ルー、が とどかない耳の奧に 花がひらく 吐き気のする あまい香りでふるえる ラ、ラ、ルー、 枯れない ぼくは きみのリズムで ちっそくする (ラ、ラ、ルー…)

 タトゥー

今スカートをつかんでふるえてる 指先は味方じゃないけどわたしのもの よごれた汗伝う太もものうら ゆがんでゆれる蝶とべない うすくひきつれたくちびるとその中身で 教えてくれなくていい教えないで わたしはわたしのもの よごれた息伝う太もものうら ゆが…

 プリーズ

やさしいひとの名前はやさしいなあ まふゆの朝のコーンポタージュスープみたい じんわりまるくのどの奧へおちる きみの中であたしの名前は ちいさな貝がはきだした砂つぶみたいになってしまった? できそこないのクラムチャウダー ほわりとゆげをたててさそ…

 LP

うつむいて砂粒をさらってた もうずいぶん長いこと ぱらぱらと降りそそぐ砂粒におわりはなくて 首をそらして それがどこから降ってきているのか たしかめることもなかった 街もひとも道路も さびた灰色におおわれてゆく ことばは喉の奥に沈んで ゴーグルの向…

 あいさつ

ありがとうごめんねばいばい はやくちで言ったらちがってた ほんとうはたったひとこと 上手なあいさつがしたかった

 フラワーフラワー

良かったね、と言ったよ それはほんとう 心から それ以外の気持ちは やんでしまっていた おだやかに笑った 道ばたに咲く青い花を 立ち止まらずに目の端でめでる そんな祈り 良かったね おめでとう 素直に笑った さよならを どこですませたんだろう 気づかな…

残念

あたしがあたしであることを きみがよろこんでくれるのは あいであってゆるしじゃない 残念だな

 夜明け

何度つぶやいても 良くはならない なのに今夜もつぶやいてる まるで苦行のよう 「もういい」 …だから? つめたいきみの声が 幻聴じゃないなら 刺されて死ねたのに どうしてこんなに もてあますばかりで 終わりにならない あいさつよりも つぶやいている 「も…

 まほうのおわり

泣きたいときは泣いてもいいの だけどほんとは笑ってたいの どんな風にもゆれてしまう あたしはひどくちぐはぐで あちこちのスイッチを オンにしたりオフにしたり 笑っては泣き さわいでは眠り さけんでは黙り 払ってはすがる わずらわしさに目を細める あな…

 へびのすみか

やってみるよと笑って いなくなったら あなたはあたしをどう思うかな こんなときも あなたの反応を気にしてる あたしは見栄っぱりかな ほかに何もないだけかな ここは不思議なところだよ 朝と夜が交互にこない つめたいうろこで あつい吐息のへびがいるよ こ…

 生かされてる

死んでしまいたい それはあなたへの裏切りで だからわたしはここにいる しがみつくだけのものは すでにもらった これ以上はほしくない 思う気持ちに 静かにふたをする 何故ならわたしは あなたに失望されたくない それだけでも それだけでも 生かされてる

 骨

さいごまで残ったものは たいていしぶとくて くっついて離れない 不都合なんだと 言いきかせても無駄で がんとして 取り替えられるのを拒む いくつもの骨 はじめから 組み方もまちがえていた ぎしぎしとゆがんでは 隙間に風を通す ちぎれた神経は役に立たな…

 助けて

言いたくない 死んだって そんな場所に立ちたくない 追いつめられて 逃げ場はなくて それでも きっと言えない わたしにわたしは 絶望するから

 妄想リアル

月の音がリアル 星の香がリアル 水の息がリアル 石の夢がリアル 君の声がリアル 妄想だけどリアル

 みんな

泣き言を許してくれると言ったひとが うんざりとわたしの話をさえぎった ひどいと思えなかった時点で 恋は終わっていた ああ、そうだね わたしはあなたに泣き言を言ったことがなかった あなたは聞きたかっただけなんだね 「みんなそうだよ」 投げやりにまと…

 スイッチ

とたんに恐ろしくなって電源を切る。 だけどいくら切ってもなにも閉じない。 ひらくばかり。 カチ、カチ。 押してもだめなら引いてみな。 引いてもだめなら回してみな。 回してもだめなら。 とたんに恐ろしくなって電源を放る。 いつまでもざらざらつづく作…

 てのひら

視界をふさぐのは 魔法じゃなくて手のひら いつだってひとのちから

 約束

笑ってくれていいんだよ 愛してくれたらもっといい だけどそれは言わない約束だね 忘れたふりはできないよ だってそれがぼくときみの たったひとつの約束

 巻き戻し

それはいけない それではいけない くり返していたこのひとは 胸に うつくしいかたちを持っていたのではなく ただ途方に暮れていたんですか 今のわたしのように だとしたらあんまりだ 目を閉じて 息を止めて 思考を巻き戻す 気づかなかったふりをした