バカンス

六人がけのテーブルの席がふたつだけ空いてる
そのひとつを埋めるはずだった人のことを思う



その人のしぐさを
横顔を
背中を
声を
私ははっきり思い出すことができるのに
その人が空いた席に座ることはないのだ



さみしいわけじゃない
さみしいわけじゃない



ただ他愛もないことを話して笑う
心にほんの一瞬かげがおちる
足りないな、と思う
頭をふっとその人の顔がよぎる



口には出せない
音にはしない



ゆっくりと続く話し声の隙間で
私は少し視線を落として
何年か前に通ったわかれ道を思う
風化しない思い出に守られた場所で
離れたくない過去と決別する