夜犬

あのとき信じた言葉を今は笑える
あたしを負け犬と呼ぶのは
きみの勝手だけれど



信じてくれなくていい
あたしは嬉しくて泣いてるんだ
だってあたしは
ずっとこういうものになりたかった
見損なったって
きみに本気で言ってもらえるような
掛け値ない軽蔑の視線を向けてもらえるような
あたしはずっとこういうものになりたかった



だから
罵倒をありがとう
心から



もしきみが
今でも自分をあたしの神と呼ぶなら
神のように冷酷に無慈悲に
あたしを見捨てて
はやく
今すぐに
どうか



あたしにきみは捨てられない
それほどに弱い負け犬だから
怒鳴り散らしたきみの肩先が不意に冷えて
飲み込んだ唾がきみの出口を塞ぐ瞬間を待ってる
ねえ、もうすぐでしょう?
言葉に詰まってきびすを返していなくなる
その背中だけ覚えるよ



そして誰もあたしに言わない
お前は負け犬ではないと言わない
犬になるなと言わない
慟哭するほどの幸福



きみが精魂込めて造り上げた生き物は
きみの憎んだ犬だったよ
信じてくれなくてもいいけれど



あたしはずっとこういうものになりたかった