世界の秘密

失ったものを数えあげるのはやめたい
もう十何年そう思い続けてるのに
あたしは今でもこうやって
過ぎていく一瞬一瞬を
手が動く限りのスピードで書きとめようとしてる



昨日食べた半分腐った巨峰のしなびた紫
お風呂あがりの耳裏でどくどく波うつ血流の音
あなたの脈拍通りに点滅する
携帯電話のムーンストーンライト
世界のはしっこに瞬間引っかかる情景
数ミリの誤差も許さずに
紙に、キィボードにたたき込む
あたしから連なる言葉の羅列



無意味だよって笑う人が好きなのに



窓の外をかすめる大量の人間
コーヒーカップの縁に薄く残った茶色い泡
左手首の時計が刻むカウントダウン
首筋から脇に抜けて鳴るコアーズ
あたしの身体全部が刻々とトレースしてる
あなたを囲む情景
そこにいるあたしの中までも
書きとめてる
一秒ごと



そして吐き出した何億もの排泄物に浸って
目に映る全てを飲み込んだ人の傲慢さで
いつの日かこの両目を赤く濡らすんだ



そのとき世界はあたしのものだと
微笑むあたしを抹殺できる
言語化できない世界の秘密を探してる