ハーフ

お父さんとお母さんがリコンした
そうしたらあたしからはお父さんがなくなった



区役所の窓口に
二回目の連名の書類を出す前から
ふたりの心や身体はきれいにわれていたのに
心や身体にかたちがついていっただけなのに
その前と後では大ちがいだ



名字が変わる前
あたしにはたしかにお父さんがいた
だけど今お父さんはいない



おばあちゃんも
おじさんも
あたしの前では
決してお父さんの話をしない
だけどときどきお母さんに向かって
とても人間らしい顔で
あんな人二度と会いたくないと言ってる
お母さんはこまった顔で笑っている



あんなひと
でも
あたしのお父さんよ?



出て行って言おうとしてやめる
おばあちゃんもおじさんも
あたしにはうんと優しい
だからあたしもふたりにこわい顔はしない
お母さんをまねてこまった顔で笑う
なぜだか泣きそうになるけど
笑う






外で会うお父さんは
もういない人にふさわしく
ずいぶん影がうすくなってる



学校はどうだ
ほしいものはないか
おばあちゃんは
お母さんは
元気か



意味のないことを
ぽつりぽつりと訊く



あたしを乗せて走る
お父さんの銀色の車はとてもすてき
なめらかに走って
いつも家からずっと離れたところにとまる
なぜってお父さんはもういない人だから
バリアを越えて家の近くまで
くることはできないのだ



お父さんが食べさせてくれたごはんが
おいしくてもまずくても
ひとことも吐き出しちゃいけない
お父さんが買ってくれたワンピースは
お母さんが買ってくれたものになる







そんなふうにあたしとお母さんががんばったおかげで
お父さんは無事いない人になった
名前も顔も声も背中もなくなった
おばあちゃんもおじさんももうこわい顔をしない
お母さんは少し太って髪の色を気にしたりしてる







あたしは
影がずいぶんうすくなった
からだもうまく動かない
視界はぼんやりとけむって
音はなにもかもひどく遠い
だけどあたしは笑う
いい子ネって
声が
まだ聞こえるから



笑うたび

あたしの半分が
いる場所が
遠くなる



あの子が
泣いているのは
なぜだろう



あの子が
泣くのを
見るのは
とてもつらい



だけど
へいき
あたしは
あの子も
忘れる



あの子と
一緒に
あたしも
もう
いない子

なる












おやすみなさい