DOLL GIRL

パパがママをぶった
あたしはパパがきらいになった
パパがママにさわった
あたしはパパがもっときらいになった



ママがパパをさした
あたしはママをきらいになれなかった
代わりに
パパをもっともっときらいになった
あたしのことをきらいになった



だけど
イタイのはいやだし
きずつくのはこわいし
そのまま
そのまま
あたしは年をとって
いつのまにか
子どもとよばれる年をとおりすぎた



どうしてか
パパとママもまだ生きていて
どうしてか
今もおなじ部屋でくらしてる
おなじドアからでかけて
おなじドアにかえる
たまに外で食事をして
キスをして
おなじベッドでねむる



激情をどこにおいてきたんでしょう?
パパもママもとてもしずかな顔をしている
ふたりの前でわらえない
あたしを気づかう顔をする




(ねえ、むかしにとらわれすぎるのは馬鹿なことよ。
 人は変わるし、そう、やり直すことだってできるの。
 いろいろあったけど、わかるでしょう?
 ママにもパパにも必要なことだったのよ。
 だから、ねえ、勝手を言うけど許してね。
 どうかパパとママを許してちょうだい。
 今も昔も変わらず、お前のことを心から愛しているわ。)




ええ、そうね。ママ
人はやりなおすことができるんでしょう
だけど今
あたしの目の前にすわってるおとこのこが
どうしようもなくきもちわるいのは
一体どうすればいいのかしら
かたくすじのうかぶほねばったその手が
こわくてたまらないのは
彼にさわられるあたしのからだをぜんぶ
うらがえしてひきさいてやりたいのは
どうしてかしら



イタイのはいやだし
きずつくのはこわいし
ひとりでいるのはさびしい
だけどあたしはきっとこの子にも言うのよ



「さわらないで」



あのとき
ママがパパに言ったみたいに






(どうかだれよりも幸せになってね。
 愛してるわ。かわいい子。)





ええ、ママ
あたしはしあわせになるわ
だけどしあわせってどこにあるんでしょう
彼をさしたらわかるかしら



あのとき
ママがパパをさしたみたいに