飴色の瞳の猫

あなたは人がほしいと思うものを持っている
けれどあなたは幸福ではない
なぜならあなたはあなたのほしいものを持っていないから



あなたはそれを得るためにいくつかのものを捨てようとする
右手の中指にはめたオニキスの指輪
端の黄ばんだ原稿用紙の束、束、束
はさみこまれた色あせた封筒とカード
20年前の流行りのメロディ
デザインの古くなった上等のコート



冬の夜、それらを道端に並べてしんみりとあごをなでる
あなたはとても満足している
向かいのアパートメントの2階、東向きの部屋で
うすくひいたカーテンの隙間からその様子を見下ろしている
飴色の瞳の猫が大きく欠伸をする



あの猫の方があなたよりずっと賢い
なぜって彼はよく知っているから
過去をいくら手際よく整理しても
古びた手触りのほこりを被った思い出を部屋から外へ運び出しても          
あなたの望む未来など決して手に入らないことを



未来を手に入れる方法はたったひとつ
他の未来をあきらめること
そして覚悟を決めること



仕立てたばかりのスーツを着てボルサリーノの帽子をかぶり
花束を手に歩き出す
あなたの手からは他のすべての未来が失われていく
そのことにあなたはあきれるほど無頓着で年甲斐もなくうきうきして
「おはようございます、良い朝ですね」
新聞売りの男に笑顔で挨拶をしている



飴色の瞳の猫は鉢植えの隙間で居眠りをしている
彼にはなんの関係もない話だ



あなたが彼女とクリーム色の壁紙の部屋に毎日安い花を飾り
平穏で退屈で従順な日々を過ごそうと
あなたが彼女に穴のあいたストッキングみたいに簡単に
無造作に丸めて捨てられてしまおうと