空を飛ぶ男

チョコレート色の長いしっぽを持ったかまない犬が
首につけた鎖を鳴らして低くうなり続けている



エメラルド色のビロードの毛皮のなかない猫が
死んだ飼い主を捜して汚れた路地裏をするりとすり抜けていく



オパールの目をした耳の聞こえない鳥が
じっと瞳を宙に向けて聞こえない音を聞いている



パールピンクの髪を肩の上でゆらしてうたえない子供が
やわらかい白い指先でくり返し音符をなぞっている



深い闇色の瞳を細めてアンクル・エナーは思う



あの犬は牙を持っていないわけじゃない
あの猫は喜びを知らないわけじゃない
あの鳥は希望を捨てているわけじゃない
あの子供は歌を知らないわけじゃない



よく晴れた空にぽかりと白い月が浮かぶ夜
両腕のない男が青い絹のような二対の翼を拡げて空を飛んでいる



あの男に抱きしめたい相手がいることを
白いドレスに黙々と偽物の真珠を縫いつけている
笑わない娘は知らない