メリークリスマス

あたらしいマスカラを買いました
かみがたを少し変えました
赤いタイツは去年のものです



すこしずつ爪がのびるように
すこしずつ胸はたれてゆきます
日々年老いてゆくわたしを
あなたが忘れてしまってもかまいません
なんて
これは強がりですが



十二月のつめたい風に
マフラーをまきなおす
指先を信用するように
わたしはあなたやあしたを
これでも信用しています



幸福や
かなしみは
いつでも遠く
青いフィルターの向こうにあります
手を伸ばすことすらやめて
もう随分たちます
あなたがこちらへ来てくれて
とてもうれしかったけれど
もう終わりにしましょう?



ていねいにカップをあたためて
いれてくれた一杯ののみもの
かたくこわばった指先をほどいてゆくように
あなたがわたしをほどく日が
いつかやってくると
口先だけでも言えたら良かったのですが



うすいフィルターで
さえぎられたいくつもの世界
透かして見える
とおくとおくへ
伸ばした
決してかさならない
ゆびや心がいくつも
ふれあっては離れてゆきます
その残像になみだが出ます



うつくしい世界に
さよならと言うことを許してください
そんな驕った言葉しか
わたしはあなたとつながるすべを
持たないのです



きらきらと着飾る十二月の街
一分の隙もなく点滅する光の渦
したうように光る裏通りのまばらな電飾が
愛しくてたまらないのは
なぜでしょうか



世界はうつくしいです



あした途切れるかもしれない日常に
あいしてると小さくつぶやきました



メリークリスマス