サラダ

午前三時
ばりばりと生サラダを食べる
小さな器に盛られた
ローストチキンとアスパラガス
サニーレタスにカラーピーマン
にんじんとレタス
ごまのドレッシング
五百八十円のサラダ



自分では決して買わない
昼間お父さんが買ってくれたサラダ



おいしそう
ひとこと言っただけなのに
間が持たなくて
うろうろさまよう視線が
つぶやいただけの言葉だったのに



足を止めて
ひょいと買ってくれた
得意げにわたしに渡した
五百八十円のサラダ



ありがとう
笑って受け取って
駅で別れた



あんなに長い沈黙の途中
わたしがどうしてひとことも
サラダの話をしなかったのか
お父さんは気づいたかしら



五百八十円のサラダ
わたしは買えないわけじゃない
ただ買わないだけなのよ
必要ないのこんなもの
サラダくらい
もっと簡単に安く作れる



ほんのり塩味のローストチキン
上品で繊細なドレッシングは中華風
あまくてからいごまの香り



いくらおいしくても
要らないんです
こんなもの



だから嬉しいなんて嘘だ



(コレハアイジャナイ)
(ワタシノホシイモノジャナイ)



かみしめたレタスの隙間から
茶色いドレッシングが
白いTシャツの裾に落ちた



午前三時
ひとりの部屋